TPPを考えてみる
与党・民主党内でも推進派と慎重派に分かれて議論し合っているようだが、どうも一部に自分達の利権なども見え隠れするため、純粋な国益論議と言い難いようだ。
最近では政治家以外の論客のマスコミ露出によって、中野剛志氏や三橋貴明氏などの論調が目立っている。その論調は総じて参加慎重論というより参加否定論と言っていい。
だが、TPPにおける検討議題の種類が多すぎる事や、それが日本の国益にとってどういう意味を持つのかといった事がイマイチ良く判らないというのが本音だろう。大多数の一般市民がイメージしている工業製品の輸出vs農産物の輸入という単なる二極分化の議論でもなさそうである。
そこで、このTPP問題を少々乱暴だが出来るだけ単純明快な見方をしてみたいと思う。
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まず、このTPPにアメリカがなぜ参加したか?
経済不況下のアメリカにとって唯一の打開策は、外に打って出る事である。すなわち自国の産物を大きな需要の見込める国に有利な条件で輸出し市場を広げるのである。そのためには環太平洋諸国とのパートナーシップ協定という大義名分で市場を形成したい。それによって経済を回復基調にさせられれば、オバマ大統領の再選も確実となるだろう。
ところが、TPP加盟予定国は大量にモノを買える国ばかりではない。むしろ貿易弱小国が寄り集まって助け合いたいという意味合いが強かった。それが証拠に、日本を除いたGDPの割合はアメリカがダントツで90%以上を占めている。有力国のはずのカナダは、農産物を除外するという条件が認められないという理由で参加しない。
という事は、このままではアメリカにとって決して美味しい市場とはならない。そこでアメリカは日本へ参加要請をして来たのである。アメリカにとって期待できる貿易相手国は日本だけと言っていいだろう。
では、日本の国益から見てTPP問題はどうだろうか?
日本はこれまでASEANなど11ヶ国とFTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)を締結して来た。FTAでは農産物の重要品目を除外しているが、例外品目がわずかしか認められない可能性の高いTPPは、これまでのFTAとは根本的に異なっている。また、工業製品や農産物だけではなく、金融や医療、サービスや労働力など多岐に渡る項目について、原則として例外なく関税撤廃や規制緩和となる可能性が高い。
ならば、日本も韓国のようにアメリカとFTAを締結すれば良さそうなものだが?
韓国はGDPに対する輸出の割合は40%を超えていて、もはや経済成長を輸出に頼るしかない。北朝鮮との国際事情によるアメリカとの同盟強化の意味合いもあり、国内で大きな批判が出るような不利な条件を敢えて呑んでまでアメリカとのFTAを合意したのである。これはこれで苦しいながらも国益を考えた韓国政府の決断だったのだろう。
一方、一見輸出大国のイメージのある日本のGDPに対する輸出の割合は20%未満である。日本は工業製品の輸出大国というより、自国内での消費が高い内需大国と言った方が良い。最大の貿易相手国であるアメリカとの関税はもともと低水準だし、わざわざこちらからアメリカへFTAを持ちかける理由はない。
そんな事をしたら、さらに安い農産物の輸入によって少なくとも国内の市場の一部は占拠されるだろうし、加えて金融・保険・サービスなどの規制緩和問題などもクローズアップして来る事が予想される。
逆に日本の工業製品の輸出量が増えるかと言えばそうとも言えないだろう。デフレに襲われるアメリカにそこまでの購買力は望めないからである。FTAはおろか、TPPによっても輸出量は増えないとの見方が強い根拠がここにある。
結論。
このままでは、TPPは多国間協定と言いつつも、実質アメリカの日本に対する市場開放戦略にハマってしまうかもしれない。しかも二国間のFTAではなく多国間協議であるから、日本の事情を押し通そうとしても、それぞれの国の事情によって認められないという事も起こり得る。いったん決まった条件もおいそれとは変えられないだろう。
くれぐれも「参加ありき」などではなく、しっかり考えて覚悟を持って決定しておかないと、「平成の開国」どころか黒船襲来時の不平等通商条約の二の舞となってしまうかもしれないぞ、野田さん。
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