日本一のアジ刺を食べながら
だが困った事に、今回のパートナーは飛行機嫌いのNさん。おまけに大の肉食人種で、鮮魚が美味しい仙台や鹿児島に行っても焼き肉一辺倒、さらに他人が勧める店であっても自分が行きつけた店でなければ行きたがらないワガママOYAJIと来たモンだ。延々陸路で金沢入りのNさん、当然チェックインの時間も遅くなるとの事で、金沢定番の店なのに一人「くろ屋」と相成った。
お一人様なので予約はナシ。よって早い時間帯を狙って午後6時に入店。狙い通りカウンター席に座る事ができた。さっそく生ビールにアジ刺、それにバイ貝の煮物。まずは大きめのバイ貝の身を取りだして一口サイズに切ったものが供された。居酒屋のお通しレベルとは全く違う、身が柔らかく味の染み込んだウマさが口中に広がった。
続いて、本命のアジ刺の姿造り。いつものように薄目に引かれた身がキラキラ光っている。これまで西の本場の関アジや阿久根の華アジ、関東では鹿島灘や房総産、つい昨日は沼津産のアジなどを食べてきたが、やはりここのアジ刺が一番だ。今のところ、ここを日本一のアジ刺と認定しておこう。「Seafood of the year」で書いたクオリティがいささかも変わっていなかったのが何より嬉しかった。
お一人様の気楽さで、続いて注文したのが、ちょっとあっさり目にシフトして鶏つくね大根。濃厚なブリ大根も好きだが、この鶏出汁が染み込んだ大根も美味だった。この段階で酒も「手取川あらばしり」からやはり定番の「黒千代香」へシフト。やっぱ日本酒ばかりだと翌日の後遺症が心配だからね。
トドメは能登サバの浅シメ。う~ん、シメ具合もちょうどいい塩梅で、この時季に味わえるサバとしては生感覚ギリギリと言っていいだろう。
大満足のホロ酔い気分で店を後にしたのは7時過ぎ、まだ外は明るさが残っていた。たまにはこんなブラリ飲みもいいモンだ。一人であるがゆえ、何となく異国を訪れた異邦人という感じで、すこぶるいい気分である。
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日本一のアジ刺を味わいつつ、ふと頭をよぎった事がある。大相撲の賭博問題だ。実に困ったモンだ。
今白状すれば厳重注意だけだよなんて、まるでガキを相手にするような手管で釣ってみたら、何と60名以上が名乗り出た。仲間内のゴルフやマージャン、花札などは力士に限らずとも誰もが経験したギャンブルの類で、一般人もそこまで責めるつもりは無かろう。
問題は暴力団関係しか胴元となり得ない野球賭博である。29名が野球賭博に手を染めていたというが、常識的にはそんな人数では収まらないはずだ。野球賭博はプロのハンデ師からの情報を受けてやるもので、素人が簡単に手を出せないギャンブルであり、かつ動く金額もハンパじゃなくなる恐ろしいギャンブルである。
最悪のシチュエーションとしては、ある有力力士の負けが込んだ場合、それを帳消しにする代わりに八百長などを受けざるを得ないというケースが出て来る事が想像できる点である。
その舞台が、社会的地位の保証や税制面での優遇が認められる公益法人日本相撲協会だというのが笑わせる。優遇された税金は我々が肩代わりしているも同然なのだ。そもそも相撲の大義名分である「国技」だって、正式に制定されたものではなく、いわば慣習みたいなものなのだ。極論すれば、たまたま国からお墨付きをもらえただけで、実質プロレスなど格闘技団体と何ら変わりないと言ってもいいのである。
伝統と格式という名の下の閉鎖社会で、中卒年代のガキが先輩のやっている事を見て、それが当たり前の価値観として固定化されてしまうのは無理からぬ事だ。賭け事だって例外ではなかろう。
そんな土壌の中で、エスカレートして行った果てに野球賭博があったのだと思う。ヤクザというのは利益のない付き合いは絶対にしないし、投じた原資は必ず回収にかかる人種である。義理人情の正義漢なんてのは健さんの映画の中だけだ。現代ヤクザの実像はカネが全てのクールでアコギな経済ヤクザというのが本当のところだろう。
だから、野球賭博やタニマチとして相撲界に近づいて来たヤツらにとって、野球賭博の掛け金如きのカネなぞハナから眼中にない。もっと大きな狙いがあると見ていいだろう。世間知らずの相撲協会が、気がついたら抜き差しならないところまで追い込まれていたという事すら十分に考えられる。そこがヤクザの本当の怖さなのだ。
いずれにせよ、名乗り出た力士達以上にスネに傷持つ親方衆がいないはずがない。「ウミを出し切る」と言った武蔵川理事長のセリフを具現化する覚悟なら、すべての関係者を公表し、これ以後、暴力団との関係が存続できないようバッサリと我が身を切って追い込むしかない。そうでなければいつまでも疑惑の目で見られ続ける事になるだろう。
さあ、果たして彼らにそれができるだろうか?
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