こりゃサバ読みじゃないぞ!
それでもジェット機よりも飛行高度が低いので、離陸後すぐに海に浮かぶ関空と淡路島のパノラマが拝めた。やがてそれは瀬戸内海を西に移動しつつ、瀬戸の島なみや四国北部の景色を眼下に広げてくれた。ああ、あそこが徳島、あそこが高松、そしてあそこが松山だろうか…。
やがて無事に車輪も出て、福岡空港に着陸。バスでターミナルビルへ移動し、タクシーで天神へ向かった。最近の博多のマイブームはすでに中洲から天神・大名エリアへと移っているので、ホテルも当然、天神の西鉄グランドホテルである。
今日はいつもの研修移動の時と違って、16時過ぎにはチェックインした。大阪会場でペアだったUさんは、お役御免で帰京したため、ここには私一人。しょうがないのでネットで晩飯の店を探していたら、面白いキャッチの店が見つかった。曰く、「五島列島の一本釣りの鯖が活け〆めで食べられる店」。
思えば、鯖を初めて美味しいと思ったのは、数年前にこの福岡で食べたゴマサバだった。鯖の刺身をタレに漬けてゴマを和えたもので、新鮮な鯖の刺身があってこそ成り立つ料理である。今回は一人だったため予約はせずに、18時の開店を見計らってホテルから1kmちょっとの道をのんびり歩いて向かった。それでもこの日は土曜の晩という事あって、この界隈は若い男女でごった返していた。
開店直後の店はまだガラガラで、首尾良くカウンターに通された。さっそく各席に置かれた本日のメニューを見ると、ゴマサバの文字が。とりあえず生ビールと一緒に注文。やがて出てきたゴマサばを一口食べて即納得。ゴマサバは歯応えのあるタイプとじっくり漬け込まれてとろけるタイプとに分かれるが、これは後者だった。
これでこの店の鯖のレベルがハッキリ分かったので、すかさず2時間前まで泳いでいたという「泳ぎサバ刺」を注文。同時に東一の純米酒のぬる燗も。ゴマサバと泳ぎサバ刺を並べるとその違いがより鮮明になる。淡い紅色の配された身は、その歯応えと共に今まで食したサバ刺のどれよりも味わい深く美味かった。口コミにもあった通り、確かに今まで食べたどの鯖よりも上を行っている。
ここで2本目のぬる燗に突入。ひとりニヤニヤしながら飲んでいる私に話しかけて来た店長に、これまでいろいろな店で食べた鯖の話をしながら、口替わりにと焼空豆を注文した。焼かれた空豆のサヤを剥いていると、店長が小さなスプーンをよこした。それでサヤの裏側をこそいで食べてみろと言う。言われた通りにスプーンでこそいで口に入れると、何と畑のコラーゲンかヒアルロン酸かと見紛うほどに淡い甘みが口中に広がったのだった。こんな食べ方、今までどの店でも教えられなかったぞ。
ぬる燗2合があっさり消えたところで、店長お勧めのノンブランド純米大吟醸が。この段階で、出て来る料理のどれもが嬉しくて思わず笑みをこぼしていた私の覚悟は固まった。…今夜はこの店で飲み倒そうと。
だったらここからは吟醸冷酒だ。それに合わせるとなると、対馬産のアナゴの白焼きだろう。対馬産アナゴは、高級鮨店で扱われる江戸前のアナゴと異なり、身が厚く脂の乗ったアナゴで、主に煮物や天ぷらに使われる西の名品だ。注文して見ていたら、そこに現れたのは何と生きたアナゴではないか!
店長の友人が築地に出す前に分けてくれるそうで、まるで蒲焼屋の生きたウナギよろしく目の前で裁かれるアナゴは私も初めてだった。これが不味いワケがなかろう。2杯目の吟醸冷酒は懐かしの名古屋の銘酒「醸し人九平次 山田錦」だった。もはや言う事なし!
気がつくとカウンターには女性同士の客やら男性同士の客やらで満席になっていた。土曜の夜だというのにテーブル席にもほとんど予約が入っているようだ。地元の人に人気のある店に間違いはないだろう。8000円ちょっとの支払いにも大満足だった。
店は「独酌しずく」。この鯖で一躍有名になった「きはる」の分家筋にあたるそうだ。
ホロ酔い気分で博多の風に吹かれながら帰るも、2軒目まではガマンしたうどん屋が3度目に現れた時には、身体が勝手に反応してそこへと吸い込まれて行ったのは言うまでもない。
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