魂の同点劇
過去の優勝校が早々と姿を消した今大会。ベスト4に勝ち上がったいずれの学校が優勝しても初優勝という、今年もまた戦国サッカーを象徴するような大会だった。その中で、事実上の決勝戦と目されていた青森山田vs関大一高戦は、これが高校サッカーの真髄と呼ぶべき、まさに歴史に残る好試合だった。
青森山田は前半31分、攻め込んだペナルティエリアで関大一高キャプテン小谷に倒されて得たPKをFW野間が決めるという予想外の得点で試合が動いた。しかし、試合開始当初は固さも見られた青森山田はこの得点をきっかけに持ち前のクレバーサッカーが出始めた。そしてその8分後には、左膝靱帯断裂を克服して復帰したキャプテン椎名がゴール右隅へ芸術的なミドルシュートを決めて関大一高を突き放した。
他のスポーツよりも1点の重みが大きいサッカーで、2点差というのはかなり厳しい。
試合は2-0のまま後半に入り、いくつかチャンスは得るものの関大一高は1点が奪えない。試合終了まで残りわずかとなり、誰もが青森山田の勝利が濃厚と思った44分、浪速の大砲FW久保綾がゴール前の混戦から左足で半ば強引にゴールにねじ込んでついに反撃の1点をもぎ取った。奇跡の半分が起こった。
だが時間がない。ロスタイム表示は3分。ところがここから奇跡の続きが起きたのである。規定時間の45分が過ぎたロスタイム、途中出場の井村が値千金の同点弾を見事にゴール左に突き刺したのだ! いくら理屈ではサッカーは10秒あれば点が取れると言っても、それがまさかこの大一番で起こるとは誰が予想しただろうか?
逆に、試合終了目前までセーフティリードと言える2点差を守りながら、最後の最後、わずか数分のうちに追いつかれた青森山田にはまさに信じられない展開だったに違いない。「月まで走れ!」を合言葉に、徹底的に走り込んで来た関大一高イレブンは、相手の足が止まりかける後半20分からがその強さを発揮すると見られていたが、まさにドンピシャだった。
関大一高の佐野監督は、2005年のJR福知山線脱線事故で亡くなった教え子の女子高生の写真を胸に下げている。ピンチになると天国の教え子に力を貸してくれと祈り、あの時から5年経った今大会、ついにベスト4まで進出した。2-0の後半、彼はもう一度力を貸して欲しいと願い、そして奇跡は起こったのである。
スタジアムを揺るがす歓声の中で試合終了のホイッスルが吹かれ、勝負は延長戦ではなくPK戦にもつれ込んだ。これが決勝戦であれば延長戦があり、延長戦になればますます関大一高にとって大きな勝機が訪れたはずだったが、準決勝まではいきなりPK決着という大会ルールがこの後の明暗を分けた。
関大一高は1人目、2人目と連続して青森山田GK櫛引にセーブされ、まるで本戦と同じ絶体絶命の場面でスタートした。それでも勝負は最後の5人目までもつれ込んだが、関大一高は最後の一人がセーブされて奇跡の同点劇はあと一歩力及ばず、青森山田の決勝進出が決まって決着した。
この試合を見ていて、思わず4年前の野洲高が優勝した決勝戦を思い出した。「ファンタジスタ!」のタイトルで書いたエントリだった。野洲高イレブンの、それまでの組織戦という高校サッカーの定石を打ち破った個人技と想像力で全国制覇したユニークサッカーは、観る者すべてにワクワク感を与えてくれた。
今日の試合の関大一高はセオリーをも凌駕する気合と魂のサッカーを見せ、青森山田は超高校級の高いスキルの鮮やかなサッカーを見せてくれた。もう一度言おう、この試合は高校サッカーの伝説になると言ってもいい、歴史に刻まれるべき好試合だった。
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