ラッシュアワーの風景

朝のラッシュアワーがまだ緩和されきれない午前9時。

3人連れの母子は混雑する地下鉄のプラットホームにいた。母親の左側には3歳くらいの男の子、右側にはベビーカーとそれに横たわる2歳くらいの男の子、3人は先頭車両の2番目のドアの位置で電車を待っていた。

そこはちょうど私が立っていた位置のすぐ後ろで、こんなラッシュアワーにベビーカーと子供を連れて移動するのはちょっと無謀だなと思いながら、やがて来た電車に乗り込んだ。

母親とベビーカーは真ん中あたりの位置に、男の子は母親と離れてドアのすぐ横に立って外を眺める位置に、その周りを通勤客がギッシリと埋めていた。そのため母親の位置からは男の子の姿は視界に捉えられなかったと思われる。

電車が走り出してしばらくして、その男の子の近くからオバサンの声がした。

「そこにいたら気をつけないとドアに手を挟まれちゃうわよ」などと盛んに何度も男の子に声を掛けていたのだった。その時は、小さな子供にきちんと注意を促す大人の図という感じで、通勤時間の殺伐とした空気を和ませる微笑ましい光景とさえ思った。

やがて電車が最も激しく乗降客が入れ替わる駅へと近づく。

「次は新宿という駅で、たくさん人が降りるからね。転んだら踏み潰されちゃうからね」

子供が落ち着かない態度を示したのかどうかは定かでないが、オバサンの注意する口調もキツくなってきたようだ。そして電車が駅に着き、ドアが開いて乗り降りの人々でごった返し始めた。次の瞬間、

「ちょっとこの子~、迷惑なんですけど~!」

母親のいる方に振り返りながらオバサンは叫び出したのである。そう言われても、ベビーカーと一緒に少し離れてしまっている母親には身動きも取れず、為すすべがない。逆に、そんな注意を受けるほど落ち着きがなく危なっかしい子供なのだったら、自分のそばに居させるくらい出来ないのかね? 母親も母親で躾がなってないわ、とすら思えたのだ。

ところが次の瞬間、オバサンは小さな子供に向かって説教を始めたのである。

「人はみんな世の中に迷惑かけないで生きていかなきゃいけないのよ。あなたも私らに迷惑をかけちゃいけないの。わかってる?」

おいおい、それって3歳程度の子供に向かって言う事じゃないだろ。この時点で、私を含めた周りの乗客は確実にオバサンの説教口調に異変を感じていたはずだ。そう、迷惑なのはオバサン、あんたの方じゃないか、と。

オバサンの説教は次の駅に着くまで途切れることなく続き、その駅で私を含めた乗客と共にその駅で降りて行った。降り際にドア横の男の子を見たが、特に挙動不審でもなくおとなしく立っているではないか。ただしその目線は下を向き表情は暗かった。

そりゃそうだ、知らないオバサンからいきなり延々と意見されたら、まるで身に覚えもないのに怒られ続けているようなモンじゃないか。最初の微笑ましい感じはどこへやら、何か新興宗教の信者か、はたまた精神に疾患を抱えていると見るほうが自然と思えるほどだった。気の毒に、その男の子はまぎれもなく被害者だったのである。

状況によってモノの見方や善悪が変化し、時には第一印象と真逆の印象に辿り着くというのはよくある話。それは人物でも仕事でも、支持率急落が指摘されている鳩山政権と民主党でも、そして日常風景の中にでも。





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Chaie<チャイ>

Author:Chaie<チャイ>
最初のWebsite開設は2001年のクリスマスのことでした。その後、紆余曲折を経てこのBlogへ引越して今に至ります。これからも日々の記録とさまざまなテーマについての意見や感想などを屁理屈コラム日記風に綴りたいと思ってます。

生まれも育ちも東京の下町です。東京タワーやチキンラーメンと同い年なので結構生きてますが、せめて精神年齢くらいは若いつもりでいたいなと。

自称「日本酒のソムリエ」のつもりでしたが、検査値との闘いの末に禁酒に踏み切り、それ以来かなり普通の生活を送ってます。

下手なアコギとウクレレを弾いて昭和を歌ったり、カラオケでも昭和を歌ったりしてます。最近は40年来の憧れだったMartin D-28Mと80年代製のKamaka HF2に囲まれて幸せです。

もうひとつの大好きは欧州車! プジョー乗りのサークル「POOB(プジョー太平洋OYAJIベルト)」の関東地区元締めなるものをやってます。

実は、足掛け10年乗って来た愛車「プジョー206XS」のミッショントラブルにより箱換えを余儀なくされ、ここでも紆余曲折を経てゲルマン製装甲車のような「BMW120iCoupe」を新たな愛車としました。

それをキッカケにBMWオーナーズクラブの「Club BMW 1(CB1)」「BMWメタボ白髪連合会」などのメンバーにもなりました。

某企業のプロフェッショナルな研修職人を目指して定期的に全国を飛び回ってましたが、ステージを替えて今後は頼れる薬局のOYAJIを目指したいと思います。

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