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理不尽を喰らわされた人々

今年最後の営業プロモーション会議が昨日今日で開催された。この会議の中で、私が担当している専門営業部隊が来年から第一線の施設の担当から外れる事が明らかにされた。日本の医療界ではなじみの薄い術後の血栓予防薬を扱う営業部隊に、事実上の引導が渡されたに等しい。彼らは来年から原則として第一線のオーソリティが在籍する大学・大病院などの施設の担当を外れる事になったのである。

これが何を意味するか?

ウチの会社でトップレベルの知識とスキルを身に付けた専門営業部隊が、それを最も求められる相手から手を引くという事に他ならないのである。会社として入力する製品のプライオリティが低い上に、競合品にシェアを脅かされている現状もあって、会社としては組織的、人員配置的にもリストラクテャリングをせざるを得ない状況になった背景は一応理解できる。

競合他社にはない有り余る数の新製品上市の嵐の中で、実績的に伸び悩んでいるこの製品が営業現場で軽んじられやすいのは必然と言ってしまえばそうだろう。だが、これは例えば今流行の新型インフルエンザ感染症に例えれば分かりやすい。新型インフルエンザの本体は、今のところ季節性インフルエンザとさほどの違いはない。だが、確率的に少ないとは言え、感染患者の中でインフルエンザ脳症によって死に至るケースが存在する。

とすれば、有効的な手段は「予防」もしくは「治療」である。少数とは言え、脳症のような重篤な合併症の恐れのある疾患は、それが極力起こらないように予防するか、起こっても適切な治療で救命するかである。インフルエンザ感染症の場合は、予防のためのワクチン接種か発症後の治療としての抗ウイルス薬の早期投与で大部分が達成できる。

だが、術後の血栓となればちょっと話が違ってくる。

整形外科領域の人工関節置換術、癌などの腹部手術後の血栓や、一般には長時間のフライトで生ずる血栓として知られるエコノミークラス症候群(今はロングフライト症候群と言う)が、時としてその人に致命的な影響を及ぼす。下肢に生じた病的血栓(DVT)が剥離流出し、肺動脈を塞いで肺血栓塞栓症(PTE)を起こし、発症してしまった場合、およそ4割が短時間のうちに死に至らしめられるのが「静脈血栓塞栓症(VTE)」である。同じ病的血栓だが、医療行為で起きる場合と自然発症的に起きる場合とがある。しかも治療を施される前に絶命に至る事が少なくないのである。

だが、この術後DVTは発症率こそ高いものの、結果的に致死的PTEにまで至る率はインフルエンザ感染症の発症率とは比較にならないほど低率である。これが日本において術後血栓の予防に対する必要性の認識を低くしている一因でもある。すなわち、致死的なPTEの起こる確率は手術1万例に数例に過ぎないため、実際に致死的PTEを経験した医師は少ない。仮に術後のVTEに関する教科書的な知識を有した医師であっても、実際にPTEを経験していない場合、今までその施設で行なって来た予防用ストッキングの着装などの理学的予防法だけで十分だと誤解すらしているのである。

欧米では術後の血栓予防は、もはや出血管理や感染症予防と同様に必須とされ、患者のリスクレベルに応じた予防法が実施されているのだが、日本ではまだそれが徹底されるまでの文化が十分育っていなかった。それゆえ術後の突然死には大抵の場合「急性心不全」と病名が付けられ、知識のない遺族側もそれで納得するしかなかった。だが、術後VTEの認識が一般に普及するにつけ、きちんとした予防法を実施せずに致死的なPTEが発症した際、医慮機関に患者からの医療訴訟のリスクが生じる事になったのである。

VTE予防ガイドラインの刊行とその予防に対する診療報酬の設定に後押しされ、2004年からようやく日本においても術後のVTE予防が注目され始めて来た。そんな日本の医療界の状況下、術後血栓予防の最先端に位置する予防薬を普及させる使命を担ったのが彼ら専門営業部隊だった。カッコよく言うと、日本の医療に新しい文化を啓発しつつ植え付けていくパイオニア集団なのである。

そもそもが生きるため、人間らしい機能を回復するため受けた治療のはずなのに、それとは全く関係ないPTEで命を脅かされるという理不尽さ。当の患者は言うに及ばず、患者が笑顔で退院して行くと思って治療を施した医師にしても無念極まりない事態である。

けれども、日本における文化の未成熟による予防薬を用いた最強の抗凝固療法の確立には、それを勧める側にも実施する側にもベネフィットとリスクが存在するがゆえ、普及させるだけでもそれ相応の時間と労力が必要とされる。簡単に言えば、術後の病的血栓を予防するために用いる血が固まり難くする薬は、同時に手術による出血を止まり難くさせるというリスクを抱える事になる。という事は、いわゆるリスクベネフィット対策(例えば丁寧な縫合処置など)の必要性が出てくるという事でもある。簡単には受け入れられる事ではない。

この予防薬を用いた予防法の有用性を強く感じた私は、研修部門の立場を超えてこの薬とこれを扱う専門営業部隊のメンバーに惚れ込んで接して来た。しかしながら彼らは、社内事情やその時々の所属部署トップの思惑に翻弄され、社内の組織としてあり得ないような紆余曲折の運命を強いられた挙句、冒頭に述べた第一線の施設の担当を外されたのである。中には明らかな経営判断のミスジャッジもあった。だが、その責任を取ったものは誰もいない。

この事実は、この領域の専門家としての彼らの知識と経験、そして今まで築いてきたオーソリティとの関係をチャラにされたに等しい。彼らのプライド、モチベーションの低下を慮れば、彼らに深く関わって来た一人として、実にいたたまれない気持ちで一杯になるのである。

彼らは言う。「オレたちの存在って何だったんだ?」

合併以来、過度とも言える利益優先の姿勢ゆえ愛社精神涵養がなおざりにされて来た弊害が、結局はこの前まで思い切った投資だと会社も認めていた専門営業部隊を事実上の崩壊に至らしめたのかと思うと、もはや彼らのメンタりティに前向きの歯止めを掛ける自信などどこにもない。最後に残ったのは、人も製品も「育てる」という事が心底苦手な会社だという事実だけだった。




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Chaie<チャイ>

Author:Chaie<チャイ>
最初のWebsite開設は2001年のクリスマスのことでした。その後、紆余曲折を経てこのBlogへ引越して今に至ります。これからも日々の記録とさまざまなテーマについての意見や感想などを屁理屈コラム日記風に綴りたいと思ってます。

生まれも育ちも東京の下町です。東京タワーやチキンラーメンと同い年なので結構生きてますが、せめて精神年齢くらいは若いつもりでいたいなと。

自称「日本酒のソムリエ」のつもりでしたが、検査値との闘いの末に禁酒に踏み切り、それ以来かなり普通の生活を送ってます。

下手なアコギとウクレレを弾いて昭和を歌ったり、カラオケでも昭和を歌ったりしてます。最近は40年来の憧れだったMartin D-28Mと80年代製のKamaka HF2に囲まれて幸せです。

もうひとつの大好きは欧州車! プジョー乗りのサークル「POOB(プジョー太平洋OYAJIベルト)」の関東地区元締めなるものをやってます。

実は、足掛け10年乗って来た愛車「プジョー206XS」のミッショントラブルにより箱換えを余儀なくされ、ここでも紆余曲折を経てゲルマン製装甲車のような「BMW120iCoupe」を新たな愛車としました。

それをキッカケにBMWオーナーズクラブの「Club BMW 1(CB1)」「BMWメタボ白髪連合会」などのメンバーにもなりました。

某企業のプロフェッショナルな研修職人を目指して定期的に全国を飛び回ってましたが、ステージを替えて今後は頼れる薬局のOYAJIを目指したいと思います。

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