温故知新シリーズ 14
飲み会の席などで、乾杯のビールの後などに日本酒を勧めると、男性であっても敬遠されたという事を、最近に限らずよく経験します。理由はそれぞれあるとは思いますが、おおかたのところでは、日本酒はベタベタとして後味がまずいとか悪酔いしそうだからという理由ではないでしょうか。その結果、日本酒に代わって焼酎やサワーの類いが好まれるというのは、日本酒の文化を持つ日本人としていささか複雑な思いがします。
外国の文化人も芸術品と認めるほどの日本酒が、一方でどうして嫌われるのでしょうか?
かねがね考えていた私の結論は、やはりその味にあるのではないかという事です。酒飲みであれば、一度や二度は日本酒を飲んだ経験はお持ちでしょう。その時の印象を思い出してください。たぶんあまり良い印象は持たなかったと思います。特に小遣いの少ない学生時代に飲んだ安酒ほど、痛い思いをしているのではないでしょうか?
日本酒によってひどい目に会えば、今度はそれがトラウマになり、あれだけは飲むまいという事になってしまいます。それを重々承知の上で、ここでひとつの疑問を投げかけてみたいと思います。あなたがその時に飲んだ日本酒は、そもそも 「日本酒」 だったのでしょうか?
一般に完成品の量は原料の量によって決まります。でも日本酒の場合は、それが一定ではありません。1の原料から1の酒ができる(純米酒の場合、精白米1Kgから約1.8Lの酒ができる)のは当然ですが、モノによっては1の原料から3の酒が出来上がるのです(実際には約6Lできる)。これを 「三倍増醸酒」、略して三増酒と言います。簡単に言えば、水増し製造酒です。量を増やすためにサトウキビの絞りカスを蒸留したアルコールにブドウ糖、水あめなどの糖類、さらに化学調味料などを混ぜたものを加えた酒の事で、本来の原料である米と米麹から作った酒(純米酒)の三倍以上の生産量となります。
三増酒のルーツは戦中戦後の物資不足であるとされますが、現在でもリッパに(!)製造されているのです。しかもその添加量に制限が無いため、ついつい大量に使用されます。米の発酵によるアルコールではない合成アルコール、米の甘味ではない水あめの甘味、米のうまみではない化学調味料のうまみが入った酒が、本当の 「日本酒」 と言えるのでしょうか? 第一、そんな酒をお金を払ってでも飲みたいと思いますか?
一度でも三増酒のような質の悪い酒を飲んだら、先ほどのように日本酒に対する印象が良くなろうはずがありません。しかし、これも日本酒と呼ばれ、現在も流通しているのです。酒造会社は、生産性・利益性の高い酒ですから喜んで造りもしましょうが、こんな酒の存在によって日本酒支持者がどんどん減り、結局自分達の首をしめる事になっているのです。
三増酒の見分け方ですが、ラベルに 「米・米麹」 、「醸造用アルコール」の他に 「醸造用糖類」 の表示がある(化学調味料は表示義務が無い)酒は、敬遠された方が良いでしょう。また、一概には言えませんが、居酒屋等で妙に安く、特に機械による燗酒にされているものに多いようです。誤解の無いように言っておきますが、冷やで飲む酒は上等で、お燗用の酒はレベルが低いということは決してありません。人肌程度のお燗によって風味の開花する、素晴らしい日本酒は数多くあります。お燗という手法もりっぱな文化のひとつだと言えます。
本当の本物の日本酒(日本酒という呼び方も変な話です。清酒と呼ぶべきでしょう)は、世界に誇れる文化であると以前 「吟醸酒との出会い~」 の項で私は書きました。清酒がもっともっと自国の人々から愛され、吟醸酒に限らずとも、どの清酒であっても、これが日本の文化だと言える日が早く来て欲しいと願ってやみません。
(②へ続く)
(2003年7月 記)
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