温故知新シリーズ 06
1940年から50年代にかけて製作され、遅れて日本公開。その時つけられた二文字の邦題名から、これらの洋画を 「二文字洋画」 と私は勝手に呼んでいます。年代からもお解りの通り、我々の親世代が青春の頃の映画たちです。代表的なものに 「哀愁」 「旅情」 「慕情」 「情婦」 などがありました。
殆んどが男女の悲恋モノで、ストーリーは単純です。でもこれが良いのです。得てして今風の恋愛モノは、キャラクター設定やストーリーが妙に大仰に凝り過ぎて、なんとなく食感が悪いと思うものですが、この時代の映画は、素直に入り込め、素直に泣けます。巨大スクリーンやドルビーサラウンドもない、モノクロの小さなスクリーンというのも一役買っているでしょう。
その中で私のイチオシは 「哀愁」 です。今も自信を持って洋画No1に挙げます。主演はヴィヴィアン・リーとロバート・テイラー、監督はマービン・ルロイ、1940年作の米国映画です。原題は 「WATERLOO BRIDGE」 。あの 「君の名は」 の原型ともなりましたが、作品のレベルは比べるまでもありません。これが第二次世界大戦時に作られていたというだけで、やっぱりアメリカはすごいと思ってしまいます。
第二次大戦中のウォータールー橋の上で、手に握った想い出の小さなマスコットを見つめる初老の将校。映画はそこから第一次大戦中にさかのぼります。舞台はロンドン。空襲警報の中、この橋で初めて出会い、一目で恋に落ちる青年将校とバレリーナ。・・・物語の始まりです。
デートに誘われたある夜の将校クラブ。フロアで踊る二人。バックで静かに演奏される蛍の光の曲。演奏の途中途中でひとつずつ消されてゆくキャンドル。二人の感情のみならず、その後の運命までもを、台詞なしですべて物語る最高の演出! これが有名な 「キャンドル・クラブ」 のシーンです。
結婚を決意した二人。彼が戦地に赴く前に、彼の身内であり上官である老将校にそれを報告します。彼は最初は驚きますが、踊り子という職業よりも彼女の人柄を認め、許可を与えます。一方で彼女は、男女交際厳禁のバレエ団にそれがバレて、抗議した友達と共に退団させられてしまいます。生活はたいへんでしたが、やがて戦地に赴いた彼の仲立ちで、援助を申し出た彼の母親と対面することになります。彼の家は裕福な名家、彼は自慢の息子です。緊張する彼女ですが、ついにその日がやって来ました。
しかし、ふと見た新聞でなんと最愛の彼の戦死の報に触れてしまいます。それをまだ知らない彼の母親の気持ちを思うあまり、その事を伝えることが出来ず、かえって態度がおかしくなり、いやな印象を与えてしまいます。怒った母親は郷里に帰り、失望した彼女は、バレエ団を退団した友達と共に生活のために夜の蝶へ・・・。
でも彼は生きていたんです。復員してきた彼との皮肉な再会は、いつもの通り客引きのために駅へ行っていた時でした。驚きより嬉しさのあまり、それまでの生活を彼に言えず、「幸せになるのよ」 と言う友達の励ましにも押され、すべてを隠して結婚へと歩み始めます。彼の家での披露パーティーの夜。踊り子との結婚なんて、名家の一族から認められるはずがありません。英国は階級社会、当然といえば当然です。しかし、一族の長でもある、あの老将校が、パーティーの席上で彼女を踊りに誘い、いぶかる一族に彼女を暗黙のうちに認めさせてしまうのです。何とも温かないい場面です。
このままならハッピーエンドなのですが、物語はまた動きます。彼女はどうしても良心の呵責に耐え切れず、その夜とうとう彼の母親へそれまでの事を打ち明けてしまいます。名家の跡取の息子の嫁としての資質を気にしながらも、彼女に理解を示す古き良き母親。だからこそ悩んでいた彼女。打ち明けられ、ショックを受け、人情としては理解できるが、伝統と格式の手前やはり全面的には支持できないという演技が秀逸です。そして朝を待たずに彼女は去ってゆきます。
翌日、去って行った彼女を必死に探すうち、彼は彼女の友達から今までのすべてを明かされます。すべてを知って、それでも彼女への気持ちは変わりません。しかしその頃、彼女はすべてに絶望し、泣きながら彷徨った橋の上で馬車に飛び込んでしまうのです。
・・・そこは彼女が彼と初めて出会った場所でもありました。
時期遅れのクリスマス・プレゼントとして、素敵なあなたに贈ります。
(2001年12月 記)
・・・・・・・
この「哀愁」を初めて観たのは中学生時分だった。たまたま自宅で母親が観ていたNHKの名画劇場で「これは私が女学生時代に観て感激した映画の一つだったわ」 としみじみ語った言葉が印象的だった。
単純なメロドラマなのだが、一回目ではその意味するところがよく分からないという場面がいくつかあった。なぜ彼の母親に嫌われるような態度をとったのか、なぜ彼の母親は彼女の人柄を認めつつも告白にたじろいでしまったのかなどなど、そこにはたぶん「大人の事情」とやらがあったのだろうが、若輩の私には理解できなかったのである。
それでもこの映画は、最も私の心に残る最高評価の名画となった。名画座があれば行って観る、TV録画やVTRカセット、DVDなどはすべてゲット。ついでに、名画座に誘いたかった女の子に見事にフラれちまった過去のオマケ付きだわ。トホホ
この映画は何も構えずに感情移入でき、心置きなくたっぷり泣ける事を保証する。当世の映画に見かけるような、登場人物の妙に複雑な心情表現や入り組んだ展開のラブストーリーに食傷気味の向きには大いにオススメしたい。たぶん脚本力の差なのだろう。たまには身も心も素直にさらけ出して映画に委ねてみるのもいいモンである。
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