切られる運命にはあるものの
派遣社員は1986年に労働者派遣法が施行されて以降、1999年の小渕内閣時に登録型派遣職種が港湾、建設、医療、警備、製造の5業種を除いて解禁され、2004年の小泉内閣時にはさらに製造業にも拡大解禁された。それはバブル崩壊後の就職氷河期を味わわされた年代を巻き込んで、「いざなみ景気」と呼ばれ2002年から2007年まで続いていた好景気の波にも乗って拡大の一途を辿ったのである。
その時「売り手市場」にいた「ハケン」の若者達の言葉が、今も私の記憶にある。
なぜハケンかと尋ねられた彼ら・彼女らは、
「その仕事が自分に合っているかが分からないから正社員に縛られたくない」
「いろいろな仕事をしながら本当にやりたい仕事を見つけたい」
と異口同音に語っていた。
それは自分を社会においても「自由な立ち位置」に置いておきたいという意思表示だった。そんな彼らにとってハケンという労働スタイルはマッチしていたし、ある意味、時代の先端を行くライフスタイルのようにも見えた。フリーターやケータイなど、体裁の良さそうな言い方やカタカナ表記と同様に「ハケン」とすれば、何かスタイリッシュでもあるかのように映るのだった。
自分に合っている仕事って何? それってどこかに転がってるワケ? 仕事ってやりながら面白くなるモンじゃないの? そんなわがままが許されるの? などという議論を呼びつつも、それが容認される世の中だった事もまた事実だったのである。
だがやがて、景気の後退と共に影が忍び寄ってきた。それはハケンをライフスタイルとして選択した層だけではなく、年齢や経験などからハケンを余儀なくされた層をも含めて企業から一刀両断に切り捨てられたのである。余儀なくされた層については以下の記事に詳しい。
【ハケンという蟻地獄】「派遣」の正しい理解の仕方(上)(JanJanNews)
【ハケンという蟻地獄】「派遣」の正しい理解の仕方(下)(JanJanNews)
また、「ハケン」を続けて、幸せになれますか?(日経WOMAN)によれば、将来的なイメージを持ってハケンを選択した層でも、年齢や収入、派遣先での立場などに不安や悩みを抱えているという。
世の中、勝ち組だ負け組だと何かと二極分化させる事が好きだし、それについて批判も出るが、少なくともこの日本が資本主義である限り、ヒトもモノも勝つための競争に晒されるのは宿命だ。全てが等しく裕福だなんて事はあり得ないし、逆に平等に貧しくて良ければ共産主義にすればいい。ただし、その場合でもごく一部の支配者は別だが。
私が言いたいのは、そんな競争社会において少なくとも「負け組」にならなかった人は、必ずどこかで努力した成果を持っているという事である。武器となる学歴・実力しかり、武器となる国家資格しかり、武器となる優良企業就職しかり、そして武器となるスキル・キャリアしかりである。身を守ったり打って出られる武器があるからこそ競争に負けないのである。
ここまで話が及ぶと、家庭教育や学校教育の根幹部分の問題も浮上して来るだろう。親は断じて子供に干渉すべきであると私は思っている。個性を伸ばすという美名の下、大人からの心身的な圧力がほとんど施される事なしに緩く緩く育てられ過ぎた子供は、自ら深く考えたり決断を下す事がほとんどないため、想像力や思考力が乏しく逆境に弱い大人へと育ってゆく。
ヤバけりゃ目を逸らしたり逃げたりするのなら、厳しい競争に勝てるはずがないじゃないか!
しかし今さらそれを言っても始まらないだろう。そもそもハケンの拡大政策は、引用記事にもあるようにトヨタやキャノンといった大企業の社長・会長がメンバーの経団連を始めとした経済界の強い要望によるものだ。ハケンは特に彼ら製造業にとって極めて都合の良い雇用形態だ。事実、社会的には雇用の受け皿という大義名分も立つし、職を求める弱い立場の人たちにとっても便利なシステムだった。
たとえ派遣会社による大幅なピンハネに遭っても・・・景気が悪化さえしなければ。
人材需要の変化は特に景気に左右される製造業で激しい。もともと簡単に契約を切れるからこそハケンなのだから、確かにそれ自体には問題はなかろう。ただ問題なのは、まんまとそれを利用して大量のハケンによって潤っていた企業側の道義的責任だと言いたい。
解雇した人数や時期にあまりにも節操がなさ過ぎるんじゃないのか? 国に埋蔵金を求めるなら、自分の会社の内部留保で危急の事態に対処するのが経営者の責務でありプライドじゃないのか?
それを失くした企業を私は絶対に忘れないし、そんな企業の製品など私は二度と買わない。
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