金沢を味わって思うこと
私はこの店は初めてなのだが、過去にここを訪れた同僚達の評判がすこぶる良く、ならば今年最後のチャンスとばかりに、一月前に開催日が決まった途端にさっさとホテルを押さえて既成事実を作りつつ強引に担当したのである。だから期待は否応なく高まる。文字通り「満を持して」乗り込んだというワケだ。
店に着くと、1階のカウンターに幾つか並んだ予約席の木札が置いてある一角に通された。直ちに生ビールと共に刺盛りを注文。出てきた刺身は小型のブリである「がんど」、車鯛、カジキマグロ、甘エビ、生タコが氷を敷いた桶に並んでいた。とりあえずの生ビールはまだ飲み終えてはいなかったが、これを見たら日本酒でなくては刺身に失礼だ。間髪入れず「竹葉 純米吟醸」をオーダー。これがまた刺身にドンピシャ! ああ、日本人に生まれて良かったの瞬間だ。
実は今回の研修ツアーの私のパートナーは、2人の女性同僚がほぼ1週間おきに交代するというシチュエーションだ。それゆえ男同士の遠慮無用のエンドレス飲み会と同じテンションというワケにはいかないから、これで結構気を遣う。刺身の後は、芋焼酎を水割りにしたものを1日以上寝かせた「黒千代香(くろじょか)」という薩摩地方の焼酎の飲み方でいく。
アジの薄造り、能登サバの浅シメ、万十貝(マンジュカイ)の刺身、白海老のかき揚げ、銀杏唐揚げなど、思いつくまま見るままにオーダーし、その都度黒千代香が進む。もう何回頼んだかも定かじゃなくなったあたりで、〆のカニ味噌グラタンに至った。それでも@7000円程度で、これで金沢の代名詞は「くろ屋」で決まりと言っていいだろう。同僚ならずとも大満足の夜だった。
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最近、私の担当先のオーダーが前夜の飲み会の店目当てのワガママだと思われているらしい。まあ、それも決して無くは無いものの、私のホンネはそれだけではない。我々の本業である研修を受講者にとって最も実りあるものにするためには、まず我々トレーナーに危機感と緊張感が無ければ、受講者には伝わらない。だから、そのための心の決起を促すために、敢えて私は前夜の店に拘るのである。
端的に言えば、わざわざ地方出張に来て、おいしい店で楽しんだお前は、よもやハンパな仕事はすまいなという、言うなれば自己プレッシャーをかけているのだが、そこまでは言うまい。単にノンベの私が行きたい店があるからモチベーションが上がっているで良い。少なくともそれを自分のモチベーションアップの手段として利用させてもらっているのは事実である。
残念ながら、今のトレーナーと受講者との間の意識の乖離は、我々が思っているより進んでしまっているのではないだろうか? ユーザーや社員のQ&Aを受け付ける部署から届くデイリー・レポートを見ていても、ちょっと前に社内研修で取り上げた内容を、受講者だったはずの営業社員が問い合わせて来るのである。おいおい、それってさんざん研修でやった事じゃないかという我々の声は、もはやそこには届かない。そんな時、とりとめのない空しさを私は感じるのだ。
これほど矢継ぎ早に新製品を送り出しているウチの会社は、それゆえに営業部隊一人一人にかかる負担が同業他社のそれより大きいというのは十分理解できる。ある意味贅沢な悩みだという事も。でも、人間のキャパには当然限界ってモンがある。ターゲットを増やすためには個人の守備範囲を拡げるか人数を増やすしかないのだが、人を増やさず目一杯守備範囲だけを拡げる戦略をとって来たウチの会社は、すでに人的限界が見え始めていると言っていい。
そんな現状を踏まえた上で、社内研修とは何なのだろう? どうあるべきなんだろう? どうすればその目的を達成できるのだろう? どれほど我々はそこに貢献できるのだろう? 研修の送り手と受け手の関係はどうだろう? 事ここに至って疑問は尽きない。
ムダと知りつつ問う。例えその一端でもいいから、誰かそれを示してくれ、と。
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