ミラクルはまだ
紙や羅針盤の発明を誇示した演出は、さすがに国威発揚の意識のし過ぎと映ったが、全体的なシナリオは十分一級レベルだと感じた。一党独裁でやってきた中国に足りなかったのは、文化でも人材でもなく、資本主義による経済システムの定着だけだったのかもしれないな、などと思ったくらい、それは見事なパフォーマンスだった。
一方で、晴れやかに入場して来たロシア選手団に手を振っているプーチン前大統領の映像が流れたまさに同じ日、ロシアはグルジアに進行し戦争状態に突入した。クーベルタン男爵によるオリンピックの着想が、戦争を中止してまで開催された古代の競技会にインスパイアされてのものだと言うのに、何とも皮肉な事である。
一夜明けて日本も参加している種目がそれぞれに開始された。女子重量挙げ48kg級の三宅宏実選手は、トータル185kgで6位入賞を果たしたものの、メキシコ五輪銅メダリストの父義行氏との親子二代のメダル獲得はならなかった。なあに、まだ22歳、次がある。
女子サッカーのなでしこジャパンもアメリカに敗れ、通算0勝1敗1分崖っぷちに立たされた。開会式前に行われた初戦で早くも敗れた男子同様、ここ一番の決定力不足は否めない。北島康介選手は順当に予選通過しそうだが、女子競泳は100mバタフライと400mリレーで予選敗退。男子柔道60kg級のホープ、平岡拓晃選手も初戦で敗退。お家芸の柔道でさえ、アテネの時のようなミラクルがまだ出て来ないのは残念だ。
さて、この日のハイライトは何と言っても「ママでも金」の48kg級ヤワラちゃんだ。だが、初戦に臨むウエイティング・ゾーンの彼女が映し出された時、ちょっと気にかかった事があった。彼女にいつもの何人をも寄せ付けない「強いぞオーラ」が見えないのだ。逆に、妙にこわばっているようで、思わずアテネ大会で惨敗した井上康生選手とダブって見えた。
試合運びも慎重とか冷静沈着とかいうのとは何かが違う。相手に十分研究されているのは百も承知、それでも積極的に出て行く攻めがない。組み手拒否の反則は初戦こそ両者同時に取られ、延長戦で辛勝した。次も相手の反則による効果1つで凌いだ。しかし準決勝の終盤、遂に3回目の反則は彼女のみが宣告され、判定負けを喫してしまったのである。ここまでの3戦を通じて何かが狂っていたとしか思えない消極的な姿だった。
今回のメダルを含むバルセロナ銀、アトランタ銀、シドニー金、アテネ金、北京銅の5大会連続メダル獲得という彼女こその偉業に大いなる賞賛を贈りたい。でも、こうなったら4年後のロンドンだ。その時彼女は36歳、「ババでも金」でもう一発やってやれ!
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