苦難の果てに

福岡会場の研修2日目、午前中最後のセッションが始まろうとしていたその時、この訃報に接した。

1994年6月に発生した「松本サリン事件」の被害者で、事件の第一通報者である河野義行氏(58)の妻澄子さん(60)が午前3時4分、サリン中毒による低酸素脳症に伴う呼吸不全のため、入院先の松本協立病院で死亡した。

「地下鉄サリン事件」は、確か訪問先の病院のTVでそれを知ったと記憶している。それに9ヶ月先立って起きたのが、この松本サリン事件だった。事件では7人が死亡、重軽症者は約600人に上ったが、被害者の一人である河野氏の場合は他の被害者とは大きく異なっていた。

発生当時、サリンという物質は全く知られておらず、オウム真理教の名前も報道に出てこなかった。代わりに第一通報者の河野氏が疑われ、家から農薬が発見されたのを契機にマスコミは一斉に容疑者扱いの報道をしたのである。押し寄せる取材に何度も犯行を否認した河野氏だったが、報道によってすでに世論も彼を犯人と確定さえしていた。

その一方で、サリンによって意識不明の重体に陥ったのが妻の澄子さんだったが、それさえも河野氏の自業自得と受け止められ、彼の行為の非道さをより鮮明にさせたに過ぎなかったのである。彼は事件の被害者であり、現代最悪の報道被害者でもあった。

そして14年。この間、地下鉄サリン事件によりオウム真理教が真犯人だと判明し、河野氏の容疑は晴れた。TBSなどの報道番組ではアナウンサーが謝罪し、反省の言葉を述べていたが、澄子さんが快復する日は遂に訪れる事はなかった。河野氏は「家族のために生きてくれた」との談話を公表した。ご冥福をお祈りしたい。

かけがえのない連れ合いは半ば植物状態、自身は容疑者扱い。事件以来、修復不能なほどに人生を破壊された気持ちとはいかばかりだろうか。悔しさや怒りすら通り越した感情の境地をどれほど味わわされたかを想像すると、筆舌に尽くしがたい無念・無常を感じずにはいられない。もしこれが自分の身に起こったとしたら、とても耐えられなかっただろう。耐えて生きるも苦難の道である。

ある日突然奪われる命が未だに後を絶たない。もとよりその行為が正当化される理由など微塵も無いのに、社会環境とやらのせいで、それも致し方ないと言わんばかりの論調が一部にある事も許せない。無差別殺人は徹底して憎むべきものであり、理解しようとする必要などない。




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Chaie<チャイ>

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最初のWebsite開設は2001年のクリスマスのことでした。その後、紆余曲折を経てこのBlogへ引越して今に至ります。これからも日々の記録とさまざまなテーマについての意見や感想などを屁理屈コラム日記風に綴りたいと思ってます。

生まれも育ちも東京の下町です。東京タワーやチキンラーメンと同い年なので結構生きてますが、せめて精神年齢くらいは若いつもりでいたいなと。

自称「日本酒のソムリエ」のつもりでしたが、検査値との闘いの末に禁酒に踏み切り、それ以来かなり普通の生活を送ってます。

下手なアコギとウクレレを弾いて昭和を歌ったり、カラオケでも昭和を歌ったりしてます。最近は40年来の憧れだったMartin D-28Mと80年代製のKamaka HF2に囲まれて幸せです。

もうひとつの大好きは欧州車! プジョー乗りのサークル「POOB(プジョー太平洋OYAJIベルト)」の関東地区元締めなるものをやってます。

実は、足掛け10年乗って来た愛車「プジョー206XS」のミッショントラブルにより箱換えを余儀なくされ、ここでも紆余曲折を経てゲルマン製装甲車のような「BMW120iCoupe」を新たな愛車としました。

それをキッカケにBMWオーナーズクラブの「Club BMW 1(CB1)」「BMWメタボ白髪連合会」などのメンバーにもなりました。

某企業のプロフェッショナルな研修職人を目指して定期的に全国を飛び回ってましたが、ステージを替えて今後は頼れる薬局のOYAJIを目指したいと思います。

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