状況対応力の金メダル
リオの世界柔道、約3年ぶりの国際大会となる谷亮子は、3回戦でアテネ五輪の決勝で対戦した強敵フレデリク・ジョシネ(フランス)に延長の末に優勢勝ち。準決勝では今年のヨーロッパチャンピオン、アリナ・ドゥミトル(ルーマニア)、決勝では欠場した前大会の覇者ヤネト・ベルモイ(キューバ)にいずれも優勢勝ちした。世界トップレベルの選手を全て直接撃破しての文句ナシ、世界柔道出場7連覇を達成した。
それでも彼女をして、ここまでの道のりは決して容易なものではなかった。4月、代表選考会となる全日本選抜体重別選手権で福見友子(21)に敗れた。02年4月の大会で、当時高校生だった同選手に負けて以来、初めて同一選手に二度敗れる屈辱を味わったが、代表には選ばれた。その理由は「過去の実績」だった。ならば、勝った若い選手はどうすれば選ばれるというのか? との批判が噴出したのを覚えている。
その後も乳腺炎や体調不良による欧州遠征不参加などのアクシデントが彼女を襲う。こういった場面があるたびに、それに対する重圧が特例的に選ばれた代表という立場の彼女を容赦なく襲った事だろう。「やっぱりダメなんじゃないか」と。
32歳の彼女はそれを跳ね除け、ついに「田村で金、谷で金、ママでも金」を見事に実現させた。なにも金メダルはオリンピックでなくてもいいじゃないか。もちろん彼女の事だ、北京でも獲るだろうが。
涙で顔をくしゃくしゃにして笑った彼女がとてもきれいに見えた。
初日こそ100kg級で2連覇を目指す鈴木桂治や復活を期す100kg超級の井上康生の敗退で大きくつまずいたものの、無差別級では棟田康幸と塚田真希が優勝。塚田は78kg超級の銀メダルに続き、2個目のメダルとなった。
これにより日本のメダル数は金3、銀2、銅4の計9個。女子の全8階級中7階級でのメダル獲得は初めて。各階級5位以内に与えられる来年の北京五輪出場枠は8階級(男子2、女子6)で確保したという。
競技柔道は世界に普及するにつれ、いつのまにか「柔の道」から格闘スポーツ「JUDO」へと変貌し、一本勝ちよりもポイント争奪指向となり、国際ルールも技の流れよりも最後に制していた方がポイントになるように変わっていった。日本も「一本勝ちの柔道」から「勝つための柔道」への移行を強いられている。
それに一番対応できていたのが、皮肉にもベテランのヤワラちゃんだったのではなかろうか? 事実、一本勝ちは1回戦のみ。彼女の「状況対応力」には底が見えない。
- 関連記事
-
- F1最終決戦、笑ったのはキミ (2007/10/22)
- 野球にF1にボクシング (2007/10/11)
- 状況対応力の金メダル (2007/09/18)
- 世界陸上フィナーレ (2007/09/02)
- 羽生のせいじゃない (2007/07/28)