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無知蒙昧

ある日の終業時間の直前、ただでさえ遅れている棚替えの準備として新規採用品目表と棚落ち品目表をチェックしていたら、ふと、女性のお客さんが声を掛けて来た。年の頃は30代後半だろうか。

「あのー、D糖の無い虫除けはあります?」
「ABCDのD糖ですか? 、、、聞いた事がありませんが、D糖って何でしょうか?」
実は、虫除け薬なんて数十年使った記憶が無い。だからその成分なんて知らなかった。
「D糖がストッキングに掛かると溶けちゃうんですよ」

目の前の棚にズラっと並んだ虫除け薬の一つを手に取って成分を確認すると「D糖」ではなく「ディート」の文字が。ミスト式やスプレー式の製品を片っ端から手に取っては確認してみるも、そのどれもにディートが使われていた。ディートこそ虫除け薬の本体なのだから当然である。

「申し訳ないですが、どうやらここには無さそうですね」
「ネットで調べたらキンチョーから出てるってありましたよ」
「ここにあるキンチョーの製品はみんなディートって書いてありました」

で、彼女は再びスマホをいじって、その製品の写真を示した。
「ほら、これですよ」
示された写真がかなり小さかったので、
「すみません、老眼なので写真を大きくしてもらえますか?」
指でスクロールして拡大してくれた写真を覗き込むと、それはキンチョー製品ではなくフマキラー製品だった。ピンクのスプレー缶に「天使」の文字が見て取れた。それは棚に並んだ製品の一つで、まだ成分を確認していなかった製品だった。慌てて確認すると唯一のディート不使用品だった。

「あ、これがそうでしたね。すみません」
「あるじゃないですかー! それなら薬剤師の方に代わってもらえます?」
これは効いた〜!

「度々すみません。薬剤師はワタシなんです」
と自らの無知さ加減に赤面と反省を自覚しつつ、ピンクのスプレー缶を差し出した。

それを受け取った弾みに、彼女の手からスマホが滑り落ちそうになった。私はとっさに両手を出し彼女の抱えたバッグの辺りでキャッチし、危うく落下を阻止出来た。
「危ない、危ない。良かったですね」
と言った私に、次の瞬間、
「イヤ、イヤ、イヤ〜」
と唐突に奇妙な声を上げるではないか!

その様子に異様な違和感を覚えた私は少なからず困惑し、踵を返してレジに向かう彼女を黙って見送る事しか出来なかった。

もしかしたら彼女は極度の潔癖症なのではないだろうか?

過去にも、レジ会計で女性客が差し出した店のカゴから商品を一つ取って、バーコードを読ませた後にカウンターに置こうとしたら、
「止めてください。そこに置かれるのはイヤなんです!」
と言う。紛れもない潔癖症で、不思議と店のカゴならいいらしいが、買ったものがレジカウンターに触れるのはイヤらしい。しょうがないのでビニール袋を広げておいて、バーコードを読ませたら直接そこへ入れるようにしたという事があった。

今回も彼女のスマホに他人の手が触れたのがイヤだったのかもしれない。

いずれにせよ、終業後の帰路で早速「ディート」を検索した。虫除け薬として日本でも使用され続けていて安全性はあるとされているが、人によっては重度の皮膚炎などを引き起こす場合があり、粘膜や幼年者には使用しないとの注意喚起がなされている云々を頭に叩き込んだ。そもそも虫すら嫌がる物質の安全性が高いわけが無い道理である。

薬剤師として情けなかったが、今回もいい勉強になったと思った。

・・・・・・・

それから4日後、店の外線電話が鳴ったのでたまたま私が出ると、相手は本部のお客様係の担当者で、言われるままに店長に取り次いだ。お客様係からの電話なんて十中八九、お客さんからのクレームの連絡である。一瞬、イヤな予感。電話が終わった店長に訊くと、果たしてビンゴだった。

あの彼女は何と親会社の対応部署へ直接メールでクレームを入れたらしい。 そこからウチの本部に連絡が行って、そこからお店に連絡が来たというわけである。

そのメールには、
「年配の薬剤師がカウンターで作業していたが、絶対に私の存在を分かっていたはずなのに声を掛けて来なかった」
「薬剤師はD糖(原文まま)を知らなかったし、不使用のものはここには無いと言い張った」
「薬剤師は老眼で見えないと言って、いきなり私のスマホを叩き落そうとした。私が落下を防いだから良かったけど、、、」
「薬剤師は、それに対して全く謝罪の言葉を言わなかった」などなど。

店長には上記の顛末を詳細に話し、改善策として「製品知識の充実」と「お客様への声掛け強化」を作文して本部に報告してもらった。

相談などで直接対応するお客さんだけでも一日20人前後、月に数百人のお客さんの中には世間一般のメジャーでは測れない人も当然いると頭じゃ分かっちゃいるけど、良好なコミュニケーションが構築出来なかった上に、いざこういう展開になると気持ちがドーンと沈む。言うまでもなく自分の不勉強さが今回の顛末の最大要因なのは理解している。それでも正直「何なんだろな」と思ってしまう。





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Chaie<チャイ>

Author:Chaie<チャイ>
最初のWebsite開設は2001年のクリスマスのことでした。その後、紆余曲折を経てこのBlogへ引越して今に至ります。これからも日々の記録とさまざまなテーマについての意見や感想などを屁理屈コラム日記風に綴りたいと思ってます。

生まれも育ちも東京の下町です。東京タワーやチキンラーメンと同い年なので結構生きてますが、せめて精神年齢くらいは若いつもりでいたいなと。

自称「日本酒のソムリエ」のつもりでしたが、検査値との闘いの末に禁酒に踏み切り、それ以来かなり普通の生活を送ってます。

下手なアコギとウクレレを弾いて昭和を歌ったり、カラオケでも昭和を歌ったりしてます。最近は40年来の憧れだったMartin D-28Mと80年代製のKamaka HF2に囲まれて幸せです。

もうひとつの大好きは欧州車! プジョー乗りのサークル「POOB(プジョー太平洋OYAJIベルト)」の関東地区元締めなるものをやってます。

実は、足掛け10年乗って来た愛車「プジョー206XS」のミッショントラブルにより箱換えを余儀なくされ、ここでも紆余曲折を経てゲルマン製装甲車のような「BMW120iCoupe」を新たな愛車としました。

それをキッカケにBMWオーナーズクラブの「Club BMW 1(CB1)」「BMWメタボ白髪連合会」などのメンバーにもなりました。

某企業のプロフェッショナルな研修職人を目指して定期的に全国を飛び回ってましたが、ステージを替えて今後は頼れる薬局のOYAJIを目指したいと思います。

愛と情熱を持ってはっきりモノが言える「熱きガンコジジイ」になりたい!

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