Gone with the Wind

高い専門知識と類い稀なるトレーナースキルを持ち併せていたZ子。彼女が中途入社して来たのは去年の1月の事だった。それまで長く携わって来た専門分野の研究業務から、今度は研修トレーナーという業務に経験を積みたいというのが転職の動機だったという。

それ以降、定期的な研修のトレーナー業務を通じて、受講者から非常に良好な反応を得、周囲の期待通りにレベルの高いトレーナーとして、また家庭においては2児の母として精一杯歩み続けて来た。今年に入り、新規適応を取得した製品の集合研修の機会があり、まさにオンステージ状態で100名近い受講者を前に堂々の研修をやり遂げた事も記憶に新しい。

・・・・・・・

そんなZ子が退職する事になった。それも今月上旬に表明し下旬には最終出社日を迎えるという慌ただしさだった。

昨夜は遅ればせながらの送別会を開催したのだが、メンバーは敢えて彼女の所属チームや組織全体に呼び掛ける事は避け、公私に関係のあった有志限定とした。そのワケは彼女自身の退職の理由にあったからである。

実は2ヶ月ほど前、Z子と同じチームの同僚2名が突然退職した事がきっかけだった。ただでさえ幼い子供を抱えた主婦業とフルタイムの仕事との両立をギリギリのバランスでこなしてきた彼女にとって、メンバー減による業務負担の増加は、その限界を容易に超えるものとなってしまった。もはやこれ以上、幼稚園児を放ったらかして仕事と心中するワケにもいかない。退職を決断せざるを得ないのは明白だった。

退職を表明しようと思っていたのと同時期、Z子のチームにさらに過酷な現実が襲い掛かった。現場の営業部隊の退職により、急遽彼女のチームメンバーが臨時営業部員として現場に出るハメになったのである!

Z子は激怒した。激怒したのはその決定に際し、自分の上長がチームの現状を知ってか知らずか上層部の依頼に簡単にOKを出した事に対してだった。これで担当メンバーは5名から2名となってしまう。そうなれば研修業務一つ取っても大変な負担になるからである。それを上長に申し出たら、「ならば研修をやらなければいい。それにもう決まった事だから」という、とても研修部門の長とは思えぬ回答だった事が、さらにZ子の怒りを増幅させたという。

かくしてもはや何の躊躇も感じなくなったZ子は速攻で退職を申し出た。慌てた上長は必死に引き留めの言葉を投げたそうだが時すでに遅し、覆水盆に返らずだった。

残されたチームメンバーとしても、Z子を理解しつつも自分たちの負担増を思うと複雑な気持ちになった。今回の送別会がチームや組織全体に声を掛ける事を避けたのはそういう理由からだった。

そしてZ子は文字通り、風のごとく去って行ったのだった。

・・・・・・・

実は送別会の前日になって、Z子から「実は、明日オペが決まったのでお酒をあまり飲めなくなりました」というショッキングなメールが届いていた。改めて会の席で事情を訊いたところ、先月の定期検診で乳がんの疑いが出、精密検査の結果、急遽オペが決定したとの事。本来なら、のんびり送別会なんてやってる場合じゃないけど、彼女は至って元気に立ちまわっていた。

稀有な資質を持った研修トレーナーとして、研修部門の同僚として、Z子がいなくなったのは返す返すも残念である。だがそれ以上に、彼女を襲った疾病とその転帰が気掛かりなのは言うまでもない。幼い2人の子供達のためにも、あの明るく押しの強い関西弁を聞ける日が一日も早く戻って来て欲しいと願うばかりである。

もちろん、その日がすぐにやって来るのを信じて疑わない。

次回の飲み会は彼女のホームグラウンドでちゃんこ鍋大会をするって約束したのだから。

Good Luck, Zeniko!





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Chaie<チャイ>

Author:Chaie<チャイ>
最初のWebsite開設は2001年のクリスマスのことでした。その後、紆余曲折を経てこのBlogへ引越して今に至ります。これからも日々の記録とさまざまなテーマについての意見や感想などを屁理屈コラム日記風に綴りたいと思ってます。

生まれも育ちも東京の下町です。東京タワーやチキンラーメンと同い年なので結構生きてますが、せめて精神年齢くらいは若いつもりでいたいなと。

自称「日本酒のソムリエ」のつもりでしたが、検査値との闘いの末に禁酒に踏み切り、それ以来かなり普通の生活を送ってます。

下手なアコギとウクレレを弾いて昭和を歌ったり、カラオケでも昭和を歌ったりしてます。最近は40年来の憧れだったMartin D-28Mと80年代製のKamaka HF2に囲まれて幸せです。

もうひとつの大好きは欧州車! プジョー乗りのサークル「POOB(プジョー太平洋OYAJIベルト)」の関東地区元締めなるものをやってます。

実は、足掛け10年乗って来た愛車「プジョー206XS」のミッショントラブルにより箱換えを余儀なくされ、ここでも紆余曲折を経てゲルマン製装甲車のような「BMW120iCoupe」を新たな愛車としました。

それをキッカケにBMWオーナーズクラブの「Club BMW 1(CB1)」「BMWメタボ白髪連合会」などのメンバーにもなりました。

某企業のプロフェッショナルな研修職人を目指して定期的に全国を飛び回ってましたが、ステージを替えて今後は頼れる薬局のOYAJIを目指したいと思います。

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