あたふた週間
実はこの日の午前中、真菌性肺炎を発症し、熱発と共に呼吸困難になったと聞いていた。主治医(と言っても30代と20代と思しき2名のDr)との事前打ち合わせで、母親の希望もあって呼吸困難に陥っても挿管まではしないと決めていた。
それまで親父の顔には、鼻と口を小さく覆うくらいの酸素供給器が着けられていた。これは文字通り高濃度の酸素を口元に供給する装置で、呼吸はあくまでも自力で行なうものである。呼吸機能の目安である動脈血酸素飽和度(SPO2)は指につけたパルスオキシメータで計測され、これが90%を切ってくると呼吸が苦しいと判断される。
そうなると昔は気管切開か気管挿管してレスピレータ(人工呼吸器)に変更しないとならなかった。だが、この人工呼吸器は全て機械によって呼吸が管理されるので、傍からはまさに「生かされている」と見える状態になる。機械仕掛けのため、たとえ本人の自発呼吸機能がストップ(脳死など)しても動き続ける。
母親にはそうまでして延命させたいという意思はなく、親父も常々そう言っていた。だからこのまま肺炎による呼吸機能低下が進めば、親父にはご臨終の運命しか残されていないという事になる。
ところがテクノロジーの進歩とは大したモンである。今では気管挿管前にBiPAPと呼ばれる陽圧をかけてさらに呼吸を楽にできる装置があった。口と鼻を広範囲に覆う形の器具を装着し、そこから蛇腹パイプが延びていて酸素を供給する。その姿はまるでジェット戦闘機のパイロットみたいでカッコイイ。
そんなこんなで、肺炎による呼吸困難は緩和され、あとは健常人よりも時間がかかるだろうが、肺炎の鎮静化を待つばかりとなってひとまずヤマは越えたようだ。
とはいえ、原疾患(末梢胆管消失症候群)が改善されたというわけじゃないので、そちらは現在ステロイドパルス療法が試みられているが、どこまで効果が得られるかは未知数である。何せ、主治医曰く大変珍しい疾患だそうで、さまざまな精密検査はもちろん、遺伝子解析やらも実施された。たぶん学会で発表されるような症例なのだろう。
・・・・・・・
あきらめがいいと言うか、何かと悲観主義の母親と比較的楽観主義の私。
そんな母親から、今にも危ない状態になったようなメールが届いたのが日曜の深夜だった。何と2つ目のメールには葬式の希望まで書かれているじゃないの! さすがの私も、すわ一大事とばかりに月曜から開催される全国営業会議 in 横浜への出席を断念し関係者にメールを飛ばした。同時に、これまでお見舞いを断っていた近親者へも連絡し来てもらうようにした。
日曜午後には小さな個室病室に総勢10名が詰めかけ、事の成り行きを見守ったのだが、親父の状態はかなり安定していた。一同、母親の悲観主義に振り回されたとホッとした。
それでも高齢者で免疫低下状態の真菌性肺炎だから油断は禁物。大事を取って火曜日も会議を欠席して病院に詰めた。さらに今日になっても急変が見られない事を確認して午後から出社した。
これまで親族などの近親者の死には接して来たが、最も身近な自分の親ともなるとその感覚は少々異なるものだと実感した。主観的な息子の自分と妙に客観的な医療関係者の自分とが共存し、さほど感情に押し流されているわけではない。まだ十分に切迫感が湧いて来ないからかもしれないが。
病室を訪れる家族や親戚の人達は親父の手を握ったりしているが、私はまだそんな気持ちにはなれず、ただ見ているだけである。手を差し出す親父も親父だな~、男のくせにちょっと気持ち悪いな~、なんてね。
ともあれ、まだまだ一進一退は続くだろう。せめて今月中はできるだけ東京を離れずにいつでも連絡を受け、動ける状態にしておこう。
(追記)
今日は息子の大学受験1校目の合格発表日。「どうだった?」とメールしたら「よゆー」とのレス。言っとくけど、こんなところに合格したからって自慢にもならんわ! 本命はあくまでも学費の安い国公立校だぞ。
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