温泉三昧&経済回すぞドライブ旅行 ~その2
ささやかな経済を回した三陸エリアを後にして、次の温泉三昧は山形県上山温泉へ。数ある山形県の温泉地のうち、ここに決めたのは客室露天風呂が比較的リーズナブルだったせいばかりでもない。
ウチの会社が現在の形になる一つ手前の時期、すなわち2つの会社が合併した1年後の2000年、私は生涯初めて箱根の山を越えた名古屋へと異動したのだが、それとほぼ同じ時期に四国から異動して来たのがIさんだった。やがてIさんは私の上司にもなるのだが、Iさんの名前を聴いた際、私のいにしえの記憶がなぜか刺激されたのを覚えている。
実は、今は無きK社で私は社会人デビューをしたのだが、入社当時は営業部門ではなく、学術研修部門に配属されていた。折しも営業職の資格制度が取り沙汰されており、年間100時間の企業研修が業界でスタートした時期でもあった。そんなところへ大学出たてのぺーぺーが社内研修講師の一端を任せられたのだから、今から思えば無謀とも言える仕事に就いたとも言える。
当時はPCなんてツールはなく、出席管理や採点結果の記録などはすべて紙の名簿に手書きで付けていた。入社や異動などがあれば都度、名簿の追加・訂正を行なっていたため、全営業社員が300名程度だった事もあって、ほぼ全員の名字と名前は頭に入った。たとえ数年しか在籍しなかったIさんの名前であっても例外ではなかった。
というわけで、顔を合わせて「Iさんって、K社にいらした事がありますよね?」が最初の挨拶になった。Iさんにしてみれば、短期間であれ業界弱者のK社にいたという事実は内緒にしていたらしく、秘密の過去を知っている人間がいた事にびっくりしたそうだ。
そんな事からIさんとの仕事上の付き合いが始まったのだが、3つ目の会社と合併してしばらく経った2002年、私は再び東京へ戻った。Iさんもその後無事に定年退職を迎えた。Iさんは雪と温泉を求め、山形県上山温泉には甚だ不釣り合いな41階建てのマンションへ住まいを移した。その後東京で1回会う機会があったものの、それ以降はあっという間に10年の時が流れてしまっていたのだった。
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上山温泉は住宅地にある温泉街だ。だから眺望も展望もないのだが、それでも2メートル四方もあろうかという高野槇の半露天風呂がしつらえてある客室と実に色彩豊かな夕食&朝食をいただき、Iさんと待ち合わせた上山温泉駅へと向かう。
駅前のロータリーの一角に白いワンボックスカーとその横にキャップをかぶってアロハ&短パン姿の爺さん、いやIさんの懐かしい姿を見つけた。10年振りというのに当時とさほど変わりのないIさんの要望にホッとしたが、よく考えれば私の方が姿かたちがかなり変わっていた事に気がついた。何せ当時は生涯で一番肥えていた時期で、今よりも8Kg以上は重かったのだから。
事前の電話で楽しみにしていたさくらんぼ狩りは観光客の予約殺到で叶わなかったが、Iさんの計らいで特別に出荷予定品のうち1Kgを分けてもらえる事になった。Iさん自らが営業部長を自任するH農園へ行くと、まさに出荷作業の真っ最中だった。さくらんぼの大きさを測る定規があって、それによれば分けていただいたのは3Lクラスで上から2番目の大きさのものだった。
品種は紅秀峰といい、有名な佐藤錦を品種改良し、より上品な甘みを強くしたという。こりゃ楽しみだと期待したが、帰宅後に食べてみると期待以上の美味さだった。もうスーパーあたりの佐藤錦は品質的にも値段的にも食べる気が起きないだろうと思わせた。これで現地価格は東京価格の3~4割安いから驚くばかり。
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Iさんのタワーマンション近くの個人で借りている畑を見て、昼食は近くの蕎麦屋へ。山形は蕎麦が美味いというのは知っていたが、果たしてそのお店も腰が効いていて実に風味豊かな味わいだった。さすが地元の人から贔屓にされているお店である。
すっかりお世話になったIさんに別れを告げ、紹介された蔵王越えで帰路に就く。まずは蔵王温泉大露天風呂へ。車でなければとても行けそうにない山の上にあるのだが、それでも人気なのだろう、平日にも関わらず数台の車が停まっていた。お湯は、松島温泉がお肌スベスベの女性的な泉質なのに比べ、白濁の硫黄臭の男性的な泉質だった。ふと、山梨県のほったらかし温泉を連想した。思えばこの3日間で3種類の温泉にタップリ浸かれたのだから贅沢な事この上なしである。
続いて頂上までの道をまるでラリーカーのごとく駆け抜けて、着いた先が蔵王のお釜。要するに噴火口の湖である。さすがに平日、ここらあたりにも人は少なく、ゆっくりと見ていられたが、実はここに来るまでの山道の方が私には面白かった。かつてプジョー206を走らせていた時のフィーリングにも似た、小型ボディに2000CC4発ならではの回頭性の良さとFRならではの背中を押されるようなフィーリングを同時に味わえた分、BMW120iCoupeになってさらに楽しみが広がったようだった。
そして山を越え、白石ICから東北道へと入り、帰りも順調にツーリングで来た。もちろん行きと同様、相変わらず助手席リミッターはやいのやいのとやかましかったけど。それでも台風と梅雨前線で心配された天気にも恵まれた(帰京翌日から東北地方に豪雨が見舞った!)から万々歳だわな。
残る課題は、閖上赤貝リベンジと南三陸町以北の気仙沼及び岩手県エリアへの訪問である。これもそう遠くない日に必ずチャレンジしたいと思っている。
(おしまい)