ぶらり先斗町
今回の夕食を兼ねた飲み屋は、いつも行く町屋風居酒屋ではなく、敢えて探索しに出かけた。着いた先は河原町。目指す刺身居酒屋が残念ながら定休日だったので、そのまま風に吹かれて「富士の高嶺に降る雪も~、京都先斗町に降る雪も~」の先斗町へ。だいぶ観光地化されたと言うものの、肩が触れ合いそうな道幅2mちょっとの路地は、下町育ちの私の琴線に十分に触れ、極めて心地よい散策になった。
同僚曰く、このあたりも昔は「一見さんお断り」の店も多くあったとか。さらに、レベルの高い良い店は木屋町通りにつながっている路地に多いとか。見ればまだまだ料亭風の店も軒を連ねている。でも表にメニューすら掲げていない店は少ない。きっとそういう店が、今でも「一見さんお断り」なのだろう。
店々を覗き込む観光客を追い越しながら、路地に出逢うたびに覗き覗きウロウロし、辿り着いたのが「しし蔵」という小さな店だった。
いかにも京都のしもた屋といった雰囲気で、さっそく男二人にはチト狭い小上がりに陣取った。このサイズも京風なんだそうだ。まずは生ビール、間髪入れずツブ貝とよこわの刺身を注文した。なんとこれが大当たり! ツブ貝はまるで北海道品質と見まごうばかりの新鮮さで、それ以上に出色だったのは初体験のよこわの刺身だった。
体長90cm以下の鮪の幼魚を関西では「よこわ」と呼び、関東では「めじ」と呼ぶ。その身の特徴は、トロと赤身が程よく融合した色と柔らかい食感である。
ご主人によれば、それでも赤身、中トロ、大トロと区分けされて売られているのだと言う。そのご主人渾身のチョイスによる日本酒がメニューに並んでいる。もちろんこんな高レベルの刺身には日本酒でなければ失礼なので、まずは「奥播磨」の純米吟醸をいく。
さすがに評判の高い酒で、のど越し後に吟醸香が広がってくる感じがいい。ウン、今度はこの四合瓶をコレクションに加えよう。お次は、定番「松の司」の吟醸である。この酒は、蔵出しから半年以上寝かせると独特の酸味が落ち着き、実にふくよかになる。これの純米吟醸が我が家のワインセラーで眠っている。この店では一升瓶のちょうど最後の一杯だったのが幸いし、いい感じで丸くなっていた。さあ、こうなったらもう止まらない!
ツマミも甘鯛塩焼き、メゴチ天ぷら、地鶏塩焼きなどの焼き物揚げ物を追加。酒もいつしか山形正宗の純米吟醸へ。その後、何種類か杯を重ね、さらに追加のツマミも注文したらしい。当然覚えてないが、大満足でお開きを迎えた事だけは確かだ。この時点で明日の研修なんて正直ブッ飛んでいた。
その後、同僚の大好きなシメの定番、ラーメンへ。例によって、すでに悪魔のささやきが始まっていたが、もはやそれに気付く理性も失せていた。ラーメンを完食してなお、悪魔はささやく。そのお導きに従い、わざわざ案内所で紹介を受けてまで行った先が小さなカラオケスナックだったのである。
居合わせた数人の年配客の年代層に合わせた選曲で何曲歌ったろうか。焼酎ロックをしこたま飲んで、ようやくホテルへ帰還した時には日付変更線を越えていた、と思う。
翌朝。朝食の和洋バイキング会場に行って驚いた! 30~40人いた客の8割以上が外国人だったのである。しかもほとんどが白人系で、やかましい中国系はあまり見かけない。少々二日酔いの身体が、まるで外国のホテルにワープしたような一種異様な感覚に襲われた。さすが国際観光都市である。
9時過ぎから15時過ぎまでの私の担当パートが終わり、後は神戸に移動するのみ。今夜はマジメに「食事」しよう。