瀬戸内のサカナ
まずは広島。広島と言えばお好み焼きの広島焼や牡蠣というイメージだが、今回は敢えてそれを外し、ホテル近くのこじんまりとした居酒屋を選んだ。「町家」という店である。店内は和風テイストと洋風ビストロ的雰囲気が混ざりあった落ち着いた隠れ家のような趣きで、ご主人一人で切り盛りしていた。
定番のサラダの後、おすすめの刺身盛りと地鶏のたたきポン酢、カボチャと湯葉のグラタンなどを注文。この日は時季のわりにかなり寒かったので、日本酒のヌル燗を合わせた。料理はどれも気持ちがこもっていておいしかったが、なんと言ってもご主人が「田舎の祖母が作ったのでどうぞ」と出してくれた瓜の漬物には驚いた。
10年間も漬けたままだったそうで、瓜の原形はとどめているものの色は黒っぽく染まっていた。たぶん奈良漬の一種だろう、口に含むと酒の香りが広がり、噛めば複雑なウマ味がグッと染み出てくる。見かけとはウラハラに、まさに燗酒に打ってつけのサカナである。それにしても梅酒じゃあるまいし、10年も漬かっていたとは!
続いて昨年6月以来の岡山。岡山と言えば「鰆の刺身」だ。去年は時季の終わり頃だったので、さほどおいしくは感じなかったが、今は春。魚へんに春と書く文字通り、旬に違いない。という事で「岩手川」へ。ここは事前にネットで予約していたのだが、店員にそれを告げてもどうも判っていない様子。ま、早い時間だったので十分空いていたから構わんが、やはり予約は直接電話でした方がいいのかも。
まず圧巻は壁一面に張り出された品書きの数々。そのどれもが実にウマそうで、見ているだけで気持ちが盛り上がってきた。お目当ての鰆が入った刺盛に加え、ノドグロの塩焼きを贅沢にも注文。さらに肉類も食べようと名古屋コーチンの塩バター焼も追加。酒は大好きな「御前酒」が無かったので、同じく地元の「竹林」を冷やでいく。
やはり今の時季の鰆はウマい。刺身自体も厚く切ってあるので、その歯応えと油の乗りは抜群である。岡山が日本一の鰆消費県であるのも素直にうなづける。やがて本日の目玉、30cmはあるノドグロの塩焼き登場! 去年、群馬の老神温泉で初めて食べたものよりはるかに大きい。この大きさだとお値段もそこそこするだろうが、そんな事すらブッ飛ぶほどの美味! 魚の塩焼きに感動したのはほんとに久しぶりだ。冷酒共々、もうどうにも止まらない~!
そんなこんなで今回の瀬戸内行は、食べ物には恵まれた。だが、春なのに気温は低く、雨にも降られた。瀬戸内気候は温暖だと小学生の時に習ったはずなのに、こりゃいったいなんだったんだ…。